【独占取材】ソニー銀行はなぜweb3子会社を設立したのか?──キーパーソンが語る「コンサルティング事業」の狙い | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)

【独占取材】ソニー銀行はなぜweb3子会社を設立したのか?──キーパーソンが語る「コンサルティング事業」の狙い

ソニー銀行がweb3関連事業を営む100%子会社の設立を発表した。

金融機関のweb3参入といえば、ステーブルコイン(SC)やセキュリティ・トークン(ST)が想起されるが、彼らが最初に掲げたのは「コンサルティング」事業だ。

なぜ金融の専門性を活かす領域ではなく、コンサルティングから始めるのか―。その背景には、ソニーグループならではのエンタメ資産と技術力、そして金融機関としての戦略があった。

CoinDesk JAPANは、本プロジェクトを率いるDX事業企画部のキーパーソン3名、金森氏、赤石氏、石井氏を独占取材。ソニー銀行のweb3戦略の核心と、彼らが見据える未来に迫る。

[左から石井氏、金森氏、赤石氏]

  • DX事業企画部 部長:金森 伽野氏
  • DX事業企画部web3プロモーション課 課長:赤石 智哉氏
  • DX事業企画部 シニアマネージャー:石井 康雅氏

なぜ今、銀行がweb3子会社なのか?

金融機関によるweb3への参入が本格化の兆しを見せる中、ソニー銀行が投じた一手は、意外なものだった。

彼らが選んだのは、銀行本体での事業展開ではなく、「子会社」という形態。そして、その最初の事業は金融サービスそのものではなく、「コンサルティング」だという。この決断の裏には、何があったのだろうか―。

新会社設立の背景について、DX事業企画部部長の金森氏は、ソニーグループがこれまで手掛けてきたweb3施策への反響が、事業化につながったと語る。

「過去にソニーグループのNFTマーケットプレイス『SNFT』と連携して様々な施策を実施してきたが、それらが大きな反響をいただいている」

その象徴的な事例が、現実の盆栽とNFTを組み合わせたプロジェクトだ。

このプロジェクトは、盆栽の所有権をNFTとして販売し、実際の育成・管理はプロの職人に委託するモデルを提示。「所有する喜び」と「管理の手間からの解放」を両立させた。

関連記事:500万円の盆栽NFTが完売、ソニーグループのRWAプロジェクトが示す可能性

この成功は、多くの企業にweb3技術の新たな可能性を示した。金森氏によれば、「まさしくそういったところが、『当社でもやってみたい』と問い合わせをいただくようになった。最速で実現していくタイミングと判断し、今回の準備会社設立に至った」という。

web3への関心は高いものの、技術的なハードルやリスク管理、法規制への対応といった参入障壁が存在する。この高まる事業化への期待に応えるため、専門子会社の設立という構想が具体化していった。

では、なぜ銀行本体ではなく、子会社を設立する必要があったのか。その答えは、日本の銀行法にある。

銀行は、その公共性の高さから厳格な規制下にあり、展開できる事業が法律で定められている。そこでソニー銀行が活用したのが、「他業銀行業高度化等会社」というスキームである。

[ソニー銀行のリリースから]金森氏は「銀行の本体では、銀行業に特に特化した事業内容をやっていくべきだということが銀行法で定められている」と説明する。

その上で、「そういった中でも、『他業銀行業高度化等会社』という仕組みが金融庁の中に設定されており、その枠組みの下で子会社として事業を行っていく」と、今回の法的根拠を明かした。

2021年の銀行法改正により、金融庁の認可を得ることで、銀行が本体では行えない先進的な事業を、子会社を通じて展開できるようになった。

[日本銀行から]取材によれば、新会社は既にこのスキームに基づき登記を完了させており、2025年秋口の事業開始に向けて準備を進めているという。

金融機関のweb3参入と聞けば、多くの人がステーブルコインやセキュリティ・トークン(デジタル証券)といった「金融インフラ」を思い浮かべるだろう。

しかし、ソニー銀行が最初の事業として選んだのは、コンサルティングによる「ユースケースの創出」だった。

この戦略について金森氏は、「まず、NFTのような技術を活用したユースケースを広げ、企業が抱える課題を解決していくことが重要だと考えている。そうやってユースケースを広げていくことで、web3市場全体の拡大に貢献していきたい」と語る。

さらに、金融インフラとユースケースの関係性については、「両者は両輪だと捉えている。金融インフラを提供するだけでなく、ユースケースも合わせて提供することで、初めて市場は広がっていく」と続けた。

ソニーならではのweb3とは?──「三位一体」の強み

web3コンサルティング市場には、すでに電通や博報堂といった大手広告代理店や、Pacific Metaなどのスタートアップが参入している。

その中で、ソニー銀行の新会社はどのような独自性を発揮していくのか。

取材から見えてきたのは、ソニーグループが持つ「エンタテインメント」と「テクノロジー」、そして「金融」という三位一体の強みだった。

新会社の競争力の源泉は、ソニーグループが保有する膨大なアセットにある。

第一に、「エンタメ資産」。アニメ、音楽、映画、ゲームといった世界的なIP(知的財産)は、web3プロジェクトにおいて強力なコンテンツとなる。

盆栽NFTプロジェクトを推進する赤石氏は、「ソニーグループが持つエンタテインメントの力は、様々な領域で活用できる」と、そのポテンシャルに言及する。

具体例として、ソニー・ミュージックアーティスツ所属のLiSAと連携したNFTプロジェクトが挙げられる。このプロジェクトでは、全国アリーナツアーと連動し、来場者限定のNFTを配布。

NFT保有者だけがアクセスできる専用の3Dルームや、ライブフォトといったデジタルコンテンツを提供し、ファンとのエンゲージメントを深める施策を展開した。

第二に、「技術力」。盆栽NFTプロジェクトで活用された高精細3Dスキャン技術「XYN(ジン)」などは、その象徴だ。

[リアリティが追求された盆栽NFT]この技術を使えば、リアルなモノの質感やディテールを損なうことなくデジタル化し、新たな価値を付与できる。

赤石氏は、「デジタルの所有感、いわゆるスマホを開けば見られる世界だけだと味気ない。そういったところの拡張を狙っている」と語り、ソニーの技術が単なるデジタル化に留まらない、深い体験価値の創出を目指していることを示唆した。

そして第三に、「金融機関の信頼性」だ。web3業界は、ハッキングや詐欺のリスク、そして複雑な法規制といった課題を抱えている。

その点について同氏は、ソニー銀行がステーブルコインの実証実験などを通じて培ってきた、金融機関ならではのノウハウが強みになると語る。

「金融機関としてトークンなどを発行するためには、リスクベースアプローチで色々とデューデリジェンス(投資対象の価値やリスクを調査する手続き)をしながら進めていく必要がある。そういった中で、我々のノウハウはかなり溜まった。この稀有なノウハウは、web3をマスアダプションさせていく上で、非常に重要な要素となる」

では、これらの強みを活かし、具体的にどのようなプロジェクトを手掛けていくのか。金森氏が最初のターゲットとして挙げたのが、「地方創生」だ。

「すでに、地方創生事業を行う企業や、金融機関から具体的な相談をいただいている」と金森氏は明かす。新会社が構想するweb3を活用した地方創生は、単なるデジタルスタンプラリーに留まらない。金森氏は、体験価値を拡張するための2つの重要な軸を挙げる。

「一つは『持っている所有感』。デジタルとリアルの融合がテーマで、盆栽のイベントでもそうだったように、その持っている所有感をいかに技術で創出していくか。そしてもう一つは『位置、ロケーション』です。実際にこういうところに行ったら何か変わる、というところが軸になる」

例えば、アニメの聖地となった場所を訪れると、その場所でしか手に入らない特別なNFTがもらえる。さらに、そのNFTを保有していることで、デジタル上の「所有感」が高まるだけでなく、地域と継続的に関わる「関係人口」へと繋がっていく。

同氏は、「地方創生とエンタメ、そして金融インフラ。この3つが組み合わさって初めて意味が出てくる」と語る。

新会社が手掛けるプロジェクトは、ソニーグループが持つ既存の技術基盤とユーザー接点を最大限に活用する形で展開される。

現段階では、ブロックチェーン基盤については、ソニーグループが開発する「Soneium(ソニューム)」や、NFTマーケットプレイス「SNFT」が対応している「Polygon(ポリゴン)」が選択肢となる。

金森氏は、「お客さまのプロモーションの仕方、施策の観点で適したブロックチェーンを選んでいくことになる」と、プロジェクトの特性に応じた柔軟な対応を示している。

そして、これらすべての体験をユーザーに届けるための主要な接点となるのが、スマートフォンアプリ「Sony Bank CONNECT」だ。このアプリは、NFTを閲覧・管理するビューワー機能を備えている。

関連記事:ソニー銀行、web3エンタメ向けアプリ「Sony Bank CONNECT」をリリース

金森氏は、各サービスの役割分担について、「(NFTの発行自体は)ソニーグループのSNFT上で行っている。Sony Bank CONNECTは、あくまでSNFT上にあるNFTの情報をAPI接続して持ってきて、アプリ上で出しているという整理だ」と説明する。

このように、新会社は単独で動くのではなく、ソニーグループ内の多様なアセットを繋ぎ合わせ、クライアントに最適なソリューションを提供する司令塔の役割を果たす。

この緊密なグループ内連携こそが、新会社の競争力の源泉となる。

ソニー銀行が見据えるweb3の未来──市場の健全化とマスアダプションへの道

ソニー銀行は、web3という新しい領域の未来をどう描いているのか。取材で語られたのは、市場への冷静な分析と、金融機関としての役割認識だった。

NFT市場は大きな調整局面を迎えている。

かつては世界一の取引量も記録したNFTマーケットプレイス「X2Y2」が2025年4月に閉鎖、日本発ではtofuNFTや、航空会社ANAグループが運営していた「ANA GranWhale NFT MarketPlace」などNFT取引所のサービス終了が続く。

このような市場環境について、金森氏は「NFTは、過度な期待が収束した状態だと感じている。ここから本当にユースケースと合わせて使われる、使われ方が出てくるともっと広がってくる」と分析する。

投機的な売買が中心だったアートやコレクティブルNFTの市場が縮小する一方で、実用性を伴うNFTの活用事例は着実に増えている。

例えば、電通は、学生インターンシップの参加証明書として機能する「アメちゃんNFT」プロジェクトを仕掛ける。

これは、NFTを単なる画像データではなく、参加証明やコミュニティへのアクセス権といった具体的なユーティリティ(実用性)と結びつける試みだ。

関連記事:【独自】万博パビリオン「宴」でアメちゃんNFT始動!外食インターンシップとWeb3が拓く「きずな」の未来

ソニー銀行の今回の取り組みも、まさにこの「実用性」を問う市場の潮流と合致している。

web3が社会に浸透するマスアダプションを達成するためには、多くの課題が存在する。ウォレットの管理や秘密鍵の取り扱いといったUI/UXの複雑さ、そしてセキュリティや法規制の不透明さだ。

この点について、赤石氏は、規制整備が市場の健全な発展に不可欠であるとの見解を示す。「これまで、いわゆるグレーゾーンで行われてきたものが、やはり規制などで思うようにいかないところがあった。より明確な指針のもと、次のステップに移ることが非常に重要」

さらに同氏は、web3の目指す未来について、「基本的には全てのものをトークナイズしていく世界観が必要とされていく」と語る。

そして、その先にある可能性として、「一般的にはトークングラフマーケティングといったところ。あらゆるものがトークン化されることによって、そこから生まれる新たな価値を発見することで、次のステップに進めると思っている」と、データと価値が連動する未来像に言及した。

この新会社の事業運営を担うキーパーソンの一人であるDX事業企画部 シニアマネージャーの石井氏は、「まさに新会社がスタートし、これから検討を進めていく段階。事業を進めながら新たな可能性を開拓し、Web3関連事業の一翼を担いたい」と、今後の意気込みを語る。

ソニー銀行によるweb3子会社の設立は、同行がこれまで培ってきた金融事業の枠組みを超え、ソニーグループが持つエンタメ、技術、金融という三つのアセットを結集させる試みである。

金森氏は、今後の展望について「これまではNFTはNFT、ST(セキュリティ・トークン)はST、そしてSC(ステーブルコイン)はSC。こういった各要素が複合的に合わさって利用できるweb3の金融インフラこそが価値だと思う」と語る。

ソニー銀行はすでに三井物産と連携したセキュリティ・トークンの提供や、SettleMint、Polygonと共同でのステーブルコインの実証実験など、金融インフラ領域でも実績を積み上げている。

関連記事:三井物産デジタル・アセットマネジメントとソニー銀行、デジタル証券による資産運用サービス「ALTERNA」での連携を開始

金融機関としての信頼性を土台に、コンサルティングでリアルなユースケースを積み重ね、市場の信頼を勝ち取っていく。

そしてその先には、STやSCといった金融インフラも統合した、総合的なweb3プラットフォームの構築というビジョンが見えてくる。

2025年秋、ソニーが描く新たな「感動体験」への挑戦が幕を開ける。

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